もっとも美しいコイン その①近代金貨編
もっとも美しいコインとは? コイン収集の魅力は美術品とも言えるデザインの楽しみがあるが、ギリシャ・ローマの時代から含めると2000年以上の歴史があり、その中からチョイスするとなると簡単にはまとめきれない。そこで時代別、素材別で考えてみたい。第1弾は近代金貨編です。
もっとも美しい金貨は何か何かとコインコレクターに聞けば、大半の人が筆頭にあげるのが「ウナ&ライオン」。1839年発行のイギリス5ポンド金貨で発行枚数は400枚。デザイナーはウィリアム・ワイオン。王立造幣局の主任原版彫刻師でまさにコイン史上最高の天才だ。表面は若きヴィクトリア女王の肖像、裏面は大英帝国を暗喩するライオンとそれを従える女神。肖像の大きさ・文字のサイズと金の地肌部分のバランス、どれをとってもパーフェクトと言っていい。さらにコインの両面が女性という点でもポイントが高い。というのも西洋コインの表面は君主の肖像が使われる。従って威厳あふれる君主の横顔が多い(簡単に言えばいかめしいおっさんの顔横)。一方コインコレクターの大半が男性である。男性は女性に弱い。デザイン上もパーフェクトであり、かつコインの両面が女性という2重の意味でウナ&ライオンは最高のアイアピールの一枚と断言していい。
2番手にあげらるのは「雲上の女神」。オーストリア1908年発行の100コロナ金貨。皇帝フランツ・ヨーゼフ2世の在位60年を祝福して、16,000枚発行された。表面はフランツ・ヨーゼフ2世の肖像、裏面は雲の上に横たわる女神で、この裏面のデザインのおかげで人気の一枚でになったと言えるだろう。発行枚数が多く、さらに状態のいいコインが多く比較的入手しやすい。このコインの弱点は表面がウナほど魅力がないという点がひとつ。さらに裏面のデザインは魅力的なのだが、打刻があまくシャープさがないという点である。打刻がシャープであれば金の地肌部分と女神のコントラストが一層際立って見応えあったと思われる。
第3位のあげられるのはアメリカ20ドル金貨、女神立像だろうか。通称セント・ゴーデンズ。1907年から1933年まで発行されアメリカでは「最も美しい金貨」とたたえられている。が、上記の画像をご覧いただくと感じると思うが、凡庸なデザインである(アメリカのコレクターの皆さん、ごめんなさい!)。金貨はその素材である金の持つ魅力から、印刷物やWEB画像では魅力的に見えなくても現物を見ると心引かれることが多いのだが、セント・ゴーデンズの実物を手にとっても小生は魅力を感じることはなかった。しかしである! 例外がある。下記の一枚をご覧ください。
これは2009年発行された20ドル金貨ウルトラハイレリーフである。平板に見えた女神が浮き彫りになり、俄然ゴージャスになる。これならば「世界一美しい」に同感できる。通常の20ドルとの主な相違点は表面の発行年の刻印が,通常はアラビア数字(つまり1907)になっているのに対し、ハイレリーフではローマ数字(MCMVⅡ)となっていることとが第一点。さらにご覧の通りコインの地肌部分が深く抉られ、その代わりに女神像が高く浮き上がっていることだ。それ故に、ハイレリーフ呼ばれる。なぜこのデザインに勝るハイレリーフが1908年以降発行されなかったかというと、理由は二つ。まず大半のアメリカ国民がローマ数字を理解できなかったということ。二つ目がハイレリーフの場合、レリーフの突起部分がコインのリムより高いので、コインを重ねることができなく通貨として使用しにくいということだ。だらかデザイン的に劣る版が採用されたのである。
さて2009年発行のものだが、こえrは1907年のハイレリーフをRESTRIKEしたものではなく、1907年のハイレレリーフのさらに上をいくウルトラハイレリーフを復刻したものだから、さらにレリーフ部分が強調され美しい。これならば「最も美しいコイン」に入れてもクレームはこないだろう。蛇足ながら1907年発行のウルトラハイレリーフは現物を見ることは至難だ。なにしろ世に出た記録は、1990年のプライベートセールが最後で、その後はオークションにも出品されることはなかった。コンディションも最高でPR68!! 30年前で150万ドルだった。以上が「もっとも美しい近代金貨のベスト3」である。が、まだ紹介しなければいけない金貨がある。蛇足として3枚紹介したい。
次点① チェコ 1934年発行 ダカット金貨 1934年にクレムニッツ鉱山再開記念として発行された一枚。チェコの金貨といえば「馬上の聖ヴェンセスラス」が有名だが、このクレミニッツ鉱山再開記念貨は知名度はいまひとつだが、デザイン上はそれを上回っている。1,2,5ダカットのほかに10ダカットの大型金貨も発行している。Kp社発行の「Standard Catalog of World Gold Coins」によれば10ダカットの発行枚数は68枚だから、ウナ&ライオンより入手は困難である。ヘキサゴン(六角形)を表裏の両面のデザインに取り入れ統一感を出しつつ、一方では細部にまで拘るという中世コインの伝統を受け継いだ、いわば近代と中世を融合した一枚と言っていい。デザイナーが誰かはまだ調べきれてない。知っている方がいらっしゃったら教えていただければ幸いである。
次点② イタリア 1906年発行 100リラ パターン貨 コインコレクターとしても著名なヴィットリオ・エマヌエーレ3世の試鋳貨。つまり発行されることがなかった貨幣だ。下の写真の通り、4匹のライオンにひかれる女神像のデザインは秀逸である。ちなみにウナ&ライオンではライオンが1頭なのに、こちらは4頭である。イタリアは大英帝国を大きく越えるという気概の表れなのかもしれない。エマニエーレ3世はこのデザインがよっぽどお気に入り見えて、1919年より額面を50セントに変えてニッケル貨として発行した。この50セントコインも人気が高いが入手は比較的容易である。デザインが美しいだけに50セントというマイナー貨だけでなく大型銀貨ででも出してくれていればと思うのは小生だけであろうか。
次点③ しかし大本命コイン。イギリス・ゴシッククラウン金打ち 次の写真がそれである。「世界で一番美しいコイン」と言われるゴシッククラウンの金打ち。レア中のレアコイン。平成20年の銀座コインオークションに出品された一枚。鏡面状に磨き抜かれた金の地肌部分の美しさ、そして霧がかかったように白く浮き上がった肖像と文字。まさに宝石と表現しても過言ではなかろう。このコインの実物を見ることができただけでも眼福であった。どなたが落札したのはわかりませんが、このコインが日本に残っておりもう一度目にする機会が訪れてほしいと願っている。
美しい金貨を紹介してきましたが、執筆していて思いのほか楽しかった。やはり美しいものは気分を良くしてくれる。「もっとも美しいコイン」第2弾も早く書きたくなってきた。
0コメント